現状、日本では骨盤位(逆子)の場合、妊娠38週頃に日時を決めて帝王切開を行う(=選択帝王切開)ケースがほとんどです。逆子の経腟分娩は、赤ちゃんの神経損傷のリスクが高いからです。
しかし、お腹を切るわけですから、母体にとっては当然経腟分娩より負担が大きく、危険度が高くなります。
しかも、帝王切開を行った場合、次回以降の分娩も原則帝王切開となります。子宮破裂を回避するためです。
ので、逆子がなおって帝王切開を回避できるに越したことはありません。
逆子での帝王切開を回避する手段の一つが外回転術になります。
・成功率が100%ではない
・頻度は(非常に)低いが、危険な合併症も起こりうる
ので、メリットとデメリットをしっかり理解したうえで、行うかどうかを判断しましょう。
1)骨盤位(逆子)=帝王切開?
現状、日本では骨盤位(逆子)の場合、妊娠38週頃に日時を決めて帝王切開を行う(=選択帝王切開)ケースがほとんどです。逆子の経腟分娩は、帝王切開に比べて赤ちゃんの神経損傷のリスクが約10倍高い、と言われているからです。
一番大きな頭が最後に出てくるので、頭が引っかかってなかなか出てこない →無理やり引っ張って出すしかない。その間にいろいろとトラブルが起こりやすい
というイメージですね。
具体的には以下のような事が起こり得ます。
・腕の神経の麻痺:たいていは時間とともに軽快→治癒となるが、持続期間や重症度は損傷の程度による。
・鎖骨骨折
・頭で引っかかって出てくるまでの時間が長い=長時間首を絞められ続けた状態→脳の酸素不足→最悪脳性麻痺
2)とはいえ、帝王切開にもデメリットはある
という事で、逆子の場合は「赤ちゃんの安全のために」初めから帝王切開を選択します。
しかし、お腹を切るわけですから、「母体にとって」は当然経腟分娩より負担が大きく、危険度が高く なります。しかも、帝王切開を行った場合、子宮破裂を回避するために次回以降の分娩も原則帝王切開となります。そうなると、妊娠や分娩のリスク(子宮破裂、前置胎盤→癒着胎盤等)は更に高くなります。
ので、逆子がなおって帝王切開をしなくて済むに越したことはありません。
3)外回転術とは
一言でいうと、「お腹の外から力を加えて赤ちゃんの向きを変えるための手技」です。
・処置自体は、短いと1分もかかりません。施設によりますが、長くても15~30分くらいの場合が多いと思います。麻酔が無いと、しっかり痛がるくらいの強さでお腹を押されます。
・残念ながら、成功率は100%ではありません。条件にもよりますが、一般的には60~80%くらいと言われています。
【合併症・危険性】
◎赤ちゃんが苦しくなる場合が稀にあります。多くは自然に回復しますが、回復しない場合は急いで帝王切開が必要になります。緊急帝王切開が必要となる頻度は100~200人に1人くらいです。
◎ごく稀に、常位胎盤早期剥離(赤ちゃんがいるのに、子宮の中で胎盤が剥がれてしまう)が起こります。経過によっては急激に母児双方の状態が悪化して、生命に関わる状況となり得ますので、超緊急での帝王切開が必要となります。
4)施術の実際:タイミングは?麻酔は併用するの?
(1)行う時期:施設によりますが、以下のどちらかがほとんどです。
1)35~36週
2)37~38週(手術の直前を含む)
(2)麻酔併用の有無:これも施設によります。併用の目的は以下の2点です。
・強く押される苦痛の軽減 ・子宮を弛緩させる→成功率up
赤ちゃんが大きくなるほど子宮内で窮屈になるので、外回転術の成功率は下がります。しかし、早く行うと、万一緊急帝王切開が必要になった場合は人工早産になり、週数が早いほど赤ちゃんの負担は大きくなります。よって、早産になった時のリスクと成功率のバランスをとって1)の時期に行う施設が多いと思います。
【私の方法】試行錯誤の末、現在は成功率よりも安全性を優先して以下を基本としています。あくまで一個人の方法です。
《時期》帝王切開の直前(38週)
《麻酔》併用あり。というか、帝王切開を行う前提で手術室へ入室し、手術用の腰椎麻酔を行う→その後に外回転術施行。成功すれば手術を中止し、不成功ならばそのまま帝王切開を行う。
【上記の方法の良い点】
◎万一赤ちゃんが苦しくなってもすぐに帝王切開で出してあげられる
◎早産の心配がない(38週で施行するため)
◎麻酔併用での施術になるので、併用しないよりは成功率が上がるし、母体の苦痛が少ない
より詳しく知りたい方は、国立成育医療研究センター骨盤位外来のHPを参考になさることをお勧めします。
産婦人科医 まさ
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