
百日咳の患者数が急増しています。
妊娠と百日咳についての要点は、以下の通りです。
①生後6か月未満での感染は無呼吸発作・肺炎・脳症などにより重症化しやすく、入院率・死亡率ともに他年齢層を大きく上回る。
②新生児や早期乳児では、特徴的な症状(激しい咳)がないまま突然呼吸停止となる可能性がある。
③にもかかわらず、感染力が非常に強い(空気感染である麻疹と同等)
④新生児(生後1か月未満)は、治療薬の制約がある
第一選択であるマクロライド系抗菌薬への耐性菌が近年増加中。その場合はST合剤が有効だが、新生児にはST合剤は使えない。

よって、出生後の赤ちゃんに感染させないことが何よりも重要です。そのためには、以下の2点を強くお勧めします。
1)妊婦に対する3種混合ワクチン接種
移行抗体(臍帯・胎盤を通じて母体から胎児へ届けられる抗体)で生後早期(特に、5種混合ワクチン接種開始前の、生後2か月未満)の新生児や乳児を百日咳から守る
2)同居家族の感染予防
一般的な予防(手洗い、うがい、マスク等)はもちろん、出産前に同居家族も3種混合ワクチンを接種するのが理想的
1)百日咳とは?
百日咳菌という細菌感染によりおこる呼吸器感染症です。
どの年齢でもかかる可能性がありますが、生後6か月未満での感染は無呼吸発作・肺炎・脳症などにより重篤化しやすく、入院率・死亡率ともに他年齢層を大きく上回るため、特に注意が必要です。
また、感染力が非常に強いのも特徴です。感染力の指標である基本再生産数(1人の感染者が感染してから回復(あるいは死亡)するまでの間に新たに感染させる人数)は、空気感染である麻疹とほぼ同数(15~16)で、covid-19やインフルエンザの7~8倍という報告があります。
【潜伏期間】7~10日間
【感染経路】飛沫感染・接触感染
【症状】初期は風邪のような症状(咳、鼻水、微熱)から始まり、やがて特徴的な咳(短い咳が連続的に起こり、息を吸うときにヒューヒューいう)が現れます。非常に激しい咳が、長期間続くことが特徴です。咳がひどい時には、嘔吐を伴うこともあるほどです。また、数ヶ月続くこともあるため「百日咳」という名前がついています。
また、小さい赤ちゃんの場合、特徴的な咳はない場合もあるため注意が必要です。時々呼吸をさぼるように見える無呼吸発作から、呼吸停止に進展する可能性があります。
【治療】細菌感染のため、抗菌薬による治療を行います。第一選択はマクロライド系抗菌薬ですが、耐性菌の増加が問題となっています。その場合はST合剤が有効ですが、新生児(生後28日未満)にはST合剤は使えません。
2024 年には国内で生後1か月の女児がマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)に感染して死亡した事例が報告され、乳児保護の重要性が改めて浮き彫りとなっています。
2)妊婦と百日咳 ~生後早期の赤ちゃんが感染することが問題~

妊婦にとっての危険性は、以下の2点になります。
①重症化リスクの高い、生後早期の赤ちゃんの感染
②激しい咳による早産リスクの上昇
①新生児、乳児の感染リスク
大切なので何度も繰り返しますが、先述のとおり、生後6か月未満での百日咳感染は重症化や死亡のリスクが高いです。
そのため、定期接種スケジュールの中で最も早い生後2か月から、百日咳ワクチンも含む5種混合ワクチンの定期接種が始まります。しかし、生後2か月未満では予防接種前のため免疫がなく、感染すると重症化のリスクがより高まります。実際に、日本でも毎年百日咳による乳児、早期新生児の重症例や死亡例が報告されています。
②(流産および)早産のリスク
咳は強い腹圧がかかるため、ひどい咳が長期間続くことにより、おなかが張りやすくなる場合があります。
3)赤ちゃんの感染を防ぐには?
1. 妊娠中のワクチン接種
アメリカやイギリスなど多くの国では、妊娠中期に「百日咳を含む三種混合ワクチン(Tdap)」を「妊娠の度に」接種することが推奨されています。妊婦さんがこのワクチンを接種することで、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体が移行し、生後すぐから百日咳に対する一定の免疫を持たせることができるからです。
接種時期は妊娠27〜36週ですが、27週0日~33週6日での接種が理想的(最も移行抗体の量が多い)と考えられています。日本では現在、妊婦へのTdapワクチン接種は定期的に行われていませんが、希望する場合は自費で接種できる医療機関もあります。感染流行に伴い対応施設は増加していますので、まずは主治医に相談することをおすすめします。
2. 家族や周囲の人のワクチン接種
赤ちゃんの感染の多くは、家族からの感染が原因とされています。そのため、赤ちゃんを取り巻く大人(パートナー、祖父母、兄弟姉妹、保育士など)が事前にTdapワクチンを接種しておくことで、「コクーン戦略」と呼ばれる集団的な予防が可能になります。百日咳は免疫が年々弱くなるため、(感染流行期には特に)過去に接種歴があっても再接種が望ましいです。
4)妊娠中・出産後に百日咳が流行していたら?
日本でも百日咳の流行がみられています。前述のとおり、感染力が非常に強いため、保育園や学校、医療機関など、人が多く集まる場所での集団感染が報告されています。
もし妊娠中や赤ちゃんの周囲で百日咳が発生しているとわかった場合は、以下のような対策を行いましょう。
-
不要な外出は控える
-
マスクの着用・手洗い・消毒を徹底する
-
咳をしている人には近づかない
-
周囲の人にワクチン接種を勧める
また、家族内で誰かが咳をしている場合は、すぐに医療機関を受診し、百日咳の可能性を医師に伝えるようにしましょう。
5)まとめ

出生後の赤ちゃんに感染させないことが何よりも重要です!!!予防のために、以下を行いましょう。
1)妊婦に対する3種混合ワクチン接種:移行抗体で生直後から感染予防
2)同居家族の感染予防:
一般的な予防(手洗い、うがい、マスク等)はもちろん、居住地域にワクチンが十分あれば、出産前に同居家族も3種混合ワクチンを接種するのが理想的
赤ちゃんの感染が問題となる理由は以下の通りです。
①生後6か月未満での感染は、無呼吸発作・肺炎・脳症などにより重篤化しやすく、入院率・死亡率ともに他年齢層を大きく上回る。
②新生児や早期乳児では、特徴的な症状(激しい咳)がないまま突然呼吸停止となる可能性がある。
③感染力が非常に強い(空気感染である麻疹と同等)。
④新生児(生後1か月未満)は、治療薬の制約がある。
第一選択であるマクロライド系抗菌薬への耐性菌が近年増加中。その場合はST合剤が有効だが、新生児にはST合剤は使えない。2024 年には、日本国内で生後1か月の女児がマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)に感染して死亡した事例が報告された。
百日咳は防げる病気です。妊娠中からしっかり対策をして、安心して赤ちゃんとの生活をスタートできるように備えておきましょう。
産婦人科医 まさ
コメント