日本での先天性サイトメガロウイルス(以後CMVと省略)感染症(=妊娠中に胎盤を通じて胎内で感染したCMV)の発生頻度は0.3%(出生時既に何らかの症状があるものは0.1%)と、胎内感染を起こしうる感染症の中で最も高頻度です。
・小児の尿・唾液が感染源となるため、お子さんがいらっしゃる妊婦さんや保育士の妊婦さんは、日常行っていることが感染の原因となり得ます。
・風疹等のように、ワクチンがありません。
・既に感染して抗体を保有している方でも、再感染・再活性化による胎児感染が稀に起こり得ます。これは他の感染症にはない特徴です。
正しい知識をつけて、適切な予防を行いましょう。
1)サイトメガロウイルス(CMV)とは:感染経路、症状
CMVは世界中のいたるところにいる、ありふれたウイルスです。
①母乳⓶子どもの飛沫、唾液、尿③性行為 等によって感染します。日本では成人の半数以上が(知らないうちに)感染し既に抗体を持っています。
妊婦さんは⓶による感染が多いと考えられています。
年齢に関わらず、健康であればもし感染しても、大半は無症状か軽度の感冒様症状程度で経過しますが、稀に発熱を伴うサイトメガロウイルス単核症やサイトメガロウイルス性急性肝炎を起こす場合があります。
2)先天性CMV感染症
・妊娠中の母体感染は、胎児の先天性CMV感染症のリスクになります。
・妊娠中は、初感染はもちろん、稀に起こる再感染や再活性化であっても、先天性CMV感染症が起こり得ます。これは他の感染症(トキソプラズマ、風疹 等)にはない、CMVの特徴です。
【先天性CMV感染症で児に起こりうる問題】
・流産や死産 ・脳の異常(小頭症・水頭症・脳内石灰化など)→精神発達障害
・聴力障害(先天性CMV感染は、生まれつきの難聴の主な原因の一つです)
3)胎児感染のリスク~初感染と再感染(再活性化)では異なります~
・先天性CMV感染症の頻度は0.3%です。症候性(出生時既に何らかの症状あり)は0.1%です。
・日本では、妊婦の70%は抗体を持っています。逆に、30%の妊婦は抗体を持っておらず、妊娠中に初感染するリスクがあります。
1)7割のIgG抗体陽性妊婦:
・0.5~1%と確率は非常に低いが、再感染・再活性化により胎児感染を起こす。
・もし胎児感染すると、症候性になる頻度が高い?(確定ではない。今後のさらなる症例蓄積が必要)。
2)3割のIgG抗体陰性妊婦:
・1~2%(=全妊婦の0.3~0.6%)で妊娠中初感染が起こる
・そのうちの40%(=全妊婦の0.12~0.24%)で胎児感染が起こる
a)胎児感染例の80%は無症候性(=出生時症状なし)
・そのうちの90%は正常に発達、10%に後遺障害が残る(出生時は症状が無くても!)
b)胎児感染例の20%は症候性(=出生時既に症状あり)
・そのうちの90%は後遺障害が残るが、10%は正常に発達する(出生時に症状があっても)
非常に大切なことは
・母体感染=胎児感染 では全くない
・胎児感染=後遺障害必発 でも全くない
・確立された胎児治療はまだないので、焦らずにしっかりと診断することが重要
という事です。
4)感染経路と予防策
【感染経路】①母乳⓶子どもの飛沫、唾液、尿③性行為 等。
妊婦さんは⓶が多いと考えられています。
感染した乳幼児のほとんどは不顕性感染=無症状ですが、数年にわたって尿・唾液中にウイルスを排出し続ける、と考えられています。
【予防法】ワクチンが無いので、感染経路を避けるしかありません。
以下に産科ガイドライン2020にある予防策を示します。参考にしてください。
①以下の行為の後には、石鹸と流水で15~20秒間は手を洗う。
・おむつ交換・子供への給仕・子供のヨダレ、ハナを拭く・子供のおもちゃを触る
⓶子供と食べ物、飲み物、食器を共有しない
③おしゃぶりを口にしない
④歯ブラシを共有しない
⑤子供とのキスはおでこ、ほっぺで
⑥玩具、カウンターなど尿や唾液が付着しそうな場所を清潔に保つ
①②⑥なんかはかなりの無理ゲーですよね。。
ただ、過剰なストレスにならない範囲で、お腹の赤ちゃんのためにご家族みんなで感染予防を頑張ってほしいな、と思います。
より詳しく知りたい方は、是非「トーチの会」のHPをご覧ください。
産婦人科医 まさ
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