サイトメガロウイルスの母子感染~上のお子さんがいる方は要注意!~

笑顔でおむつを交換する母親 産科
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 日本での先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症の頻度は、300人に1人と、先天性感染症の中で最も高頻度です。

 以下、超重要です!!

 (既に感染して)抗体を持っている妊婦でも、再感染や再活性化による胎児感染が起こり得ますこれは他の感染症にはない特徴です。

 

 しかも、最近の研究で以下の事がわかっています。

・先天性CMV感染は、初感染妊婦から産まれた児より、再感染・再活性化の妊婦から産まれた児の方が数が多い。

・児の重症化率は、初感染と再感染・再活性化で変わらない

 

よって、抗体の有無に関わらず、全妊婦が妊娠中のCMV感染に注意する必要があります。

 

(こんなに重要な情報であるにも関わらず、残念ながら、産婦人科医ですら、このことを知らない医師もたくさんいるのが現状です。。)

 

それなのに、

・小児の尿・唾液が感染源となるため、お子さんがいらっしゃる妊婦さんや保育士の妊婦さんなどは、日常行為が感染の原因となり得ます。

・風疹等のようなワクチンがありません

・重症の症状がある赤ちゃんにしか、治療の保険適応がありません。

 

感染経路を避けることが、唯一の予防策となります。

正しい知識を身につけて、おなかの赤ちゃんをCMV感染から守りましょう。

 

1)感染経路、症状

 CMVは世界中のいたるところにいる、ありふれたウイルスです。
 ①母乳⓶子どもの飛沫、唾液、尿③性行為 等によって感染します。日本では成人の半数以上が(知らないうちに)感染し既に抗体を持っています

 妊婦さんは⓶による感染が多いと考えられています。

 年齢に関わらず、健康であればもし感染しても、大半は無症状か軽度の感冒様症状程度で経過しますが、稀に発熱を伴うサイトメガロウイルス単核症やサイトメガロウイルス性急性肝炎を起こす場合があります。

2)先天性CMV感染症(胎内感染)

・妊娠中の母体感染は、胎児の先天性CMV感染症のリスクになります。

・妊娠中は、初感染はもちろん、再感染や再活性化であっても、先天性CMV感染症が起こり得ます。これは他の感染症(トキソプラズマ、風疹 等)にはない特徴です。よって、全妊婦が、妊娠中のサイトメガロウイルス感染に注意する必要があります。

大切なのでもう一度言います。再感染でも胎児への感染が起こりうるので、全妊婦が、妊娠中のサイトメガロウイルス感染に注意する必要があります。

【先天性CMV感染症で児に起こりうる問題】
流産や死産 

脳の異常(小頭症・水頭症・脳内石灰化など)→精神運動発達障害、てんかん、自閉症スペクトラム症 など

聴力障害先天性CMV感染は、生まれつきの難聴の主な原因の一つです。幼児の難聴の1/4は、先天性CMV感染によるもの、というデータがあります。)

3)胎児感染の頻度

先天性CMV感染症の頻度は300人に1人です。

 

日本では、妊婦を1000人集めると、①CMV抗体を持っている妊婦700人②CMV抗体を持っていない妊婦300人 に分かれます。

そして、最終的には、①のうち3~7人(再感染・再活性化)、②のうち1~2人(妊娠中初感染)で先天性CMV感染が起こります。

上述のとおり、先天性CMV感染児のは、①(再感染、再活性化)>②(妊娠中初感染)なんです。

 

これは、感染症としてはかなり珍しい、CMV特有の現象です。

4)胎児感染=症状・障害?

 もし先天性CMV感染症になってしまった場合、赤ちゃんには必ず症状があったり、障害が残ったりするんですか?

とても重要な質問ですね。

 

そんなことはありません。感染しても、症状も後遺障害も無く育つ子もたくさんいます。

以下のフローチャートをご覧ください。

 

 

 

大切なのは

1)先天性CMV感染症は稀な病気である: (最も高頻度の先天性感染とはいっても、)IgG陽性妊婦全体の0.5~1%、IgG陰性妊婦全体の0.3~0.8%にしか起こらない。

2)胎児感染=症状出現 ではない: 症候性(出生時既に症状あり)は、感染児のうち20~30%のみ(感染していても、70~80%の児は、出生時に無症状)。

3)出生時の症状の有無と今後の障害:

 ・症候性(出生時から症状あり)であっても、その10%正常に発達発育する

 ・ただし、無症候性(出生時には症状なし)であっても、その10%後遺障害あり

 

という事です。

5)感染予防策

【感染経路】①母乳⓶子どもの飛沫、唾液、尿③性行為 等。

妊婦さんは⓶が多いと考えられています。

感染した乳幼児のほとんどは不顕性感染=無症状ですが、数年にわたって尿・唾液中にウイルスを排出し続ける、と考えられています。

 

【予防法】ワクチンが無いので、感染経路を避けるしかありません。

以下に産科ガイドライン2023にある予防策を示します。参考にしてください。

①以下の行為の後には、石鹸と流水で15~20秒間は手を洗う。

・おむつ交換 ・子供への給仕 ・子供のヨダレ、ハナを拭く ・子供のおもちゃを触る

⓶子供と食べ物、飲み物、食器を共有しない

③おしゃぶりを口にしない

④歯ブラシを共有しない

⑤子供とキスはをするときは、唾液接触を避ける

⑥玩具、カウンター、唾液・尿と触れそうな場所、を清潔に保つ

 

①②⑥なんかは、ほぼ不可能ですよね。。

ただ、過剰なストレスにならない範囲で、お腹の赤ちゃんのためにご家族みんなで感染予防を頑張ってほしいな、と思います。

 

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6)治療

2023年3月に、中等症~重症の症候性感染児に対して、保険診療で治療(ドライシロップの内服)が出来るようになりました(世界初)。

ただ、ある程度症状が重い児のみが対象ですので、既にある症状の完治ではなく、以下が主たる目標の治療となります。

・症状を軽快させる、これ以上悪化させない

・今後予想される(今は出ていない)症状の予防・軽減

 

 よって、最も重要なことは、先天性CMV感染にならない事です。

 

大切なので何度でも言います。全妊婦が、妊娠中のCMV感染に注意する必要があります。再感染でも胎児への感染が起こりうるからです。

 

また、早期発見・早期治療で予後が改善することがわかっているため、全新生児を対象として、尿中CMVをスクリーニング検査(自費)する施設が少しずつ増えてきています。希望がある方は、かかっている産婦人科が上記を行っているかを、問い合わせてみましょう。

より詳しく知りたい方は、「トーチの会」のHPをご覧になることを強くお勧めします。

                           産婦人科医 まさ

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