妊婦のRSウイルスワクチン接種

産科
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RSウイルスワクチンのポスターを見たんですが、正直よくわからなくて。接種した方がいいですか?

はい。個人的には接種をお勧めします。

新生児、乳児のRSウイルス感染症に関する要点は以下の通りです。

 

①生後1歳未満、特に6か月未満での重症化リスクが高い

 

②新生児や早期乳児では、典型的な呼吸器症状がないまま突然呼吸停止(無呼吸発作)となる可能性がある。

 

③(他のウイルス性疾患と同様に)特効薬はないため、(重症化しても)症状に合わせた対処療法を行うしかない

 

④以下の場合は重症化リスクが高いために、新生児へのRSウイルスワクチン接種が必須となる。その場合、非常に高額な薬を毎月(6~12か月)投与する必要がある

・早産で産まれた ・低出生体重で産まれた

・心臓や肺に生まれつきの病気がある

 

 

以下のリスクを回避できる事が、妊婦のRSウイルスワクチン(以下RSワクチンと省略)接種のメリットです。

 

1)最も重症化しやすい生後6か月未満での感染リスク

2)生まれた時の赤ちゃんの状況によっては、高額の薬を毎月(6~12か月)投与しなければいけないリスク

1)RSウイルスとは?

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、一般的な呼吸器感染症を引き起こす、いわゆる風邪の原因ウイルスです。1歳までに5~7割、2歳までにほぼすべての子どもが一度は感染すると言われている、非常にありふれたウイルスです。
しかし、生後6ヶ月未満の赤ちゃんが感染すると、肺炎や細気管支炎など重症化するリスクが高く、入院が必要になるケースも少なくありません。

【感染経路】飛沫感染・接触感染

【潜伏期間】2~8日間

【ウイルス排出期間】発症後1~4週間:長いため、感染が拡大しやすい

【治療】(他のウイルス性疾患と同様に)特効薬が存在しないため、対処療法のみ

2)重要!「妊婦」にRSワクチンを接種するメリットは?

以下のリスク回避が、妊婦のRSワクチン接種のメリットです。

 

1)最も重症化しやすい生後6か月未満での感染リスク

2)生まれた時の赤ちゃんの状況によっては、高額のワクチンを毎月(6~12か月)投与しなければいけないリスク

 

≪1)最も重症化しやすい生後6か月未満での感染リスクの回避≫

生後1歳未満、特に生後6か月未満での感染は、重症化リスクが高いです。しかも、(他のウイルス性疾患と同様に)特効薬がないため、(重症化しても)症状に合わせた対処療法を行うしかありません

また、新生児や早期乳児での呼吸器感染症では、典型的な呼吸器症状がないまま突然呼吸停止(無呼吸発作)となる可能性があります。

 このように生後すぐの赤ちゃんにとって危険なRSウイルスですが、妊婦へのワクチン接種による母子免疫(母体にできた抗体を胎盤・へその緒を通じて胎児へ届ける)で、出生後3ヶ月以内の感染を約80%、生後6か月以内の感染を約70%予防できると言われています。

 2歳以上の子供にとっては、とてもありふれた、かつ何度も感染を繰り返すウイルスですので、単なる風邪として保育園や幼稚園、学校でもらってくることもよくあります。

よって、上のお子さん、特に感染予防が難しい小さいお子さんがいる妊婦さんへは、接種を強くお勧めします。母子免疫で、最も危険な生後半年以内の感染を予防してあげましょう。

(もちろん、無理のない範囲で、上のお子さんも含めた同居家族全員の感染予防もとても重要です)

 

≪2)生まれた時の赤ちゃんの状況によっては、高額の投薬を毎月(6~12か月)しなければいけないリスクの回避≫

 以下の場合は、感染した場合の重症化リスクが高いために、「新生児」への投薬が必要となります。その場合、非常に高額な薬(商品名:シナジス)を毎月(6~12か月間)投与する必要があります。

・早産で産まれた ・低出生体重で産まれた ・心臓や肺に生まれつきの病気がある

 この様な状況で産まれてくることは、事前に予測できない場合が多いです。大変な状況で産まれて来た中で、高額の治療を長期間続けなければいけないことは、ご両親にとって大きな負担となります。

 

妊娠中のワクチン接種により、万一上記のような状況になった場合に、高額の治療を回避することができる確率が非常に高くなります。

 

 

また、個人的には、金銭面のメリットは無視しても、ワクチン接種をお勧めします。

「赤ちゃんにとっては」危険な感染症から赤ちゃんを守るための移行抗体を、産まれる前からプレゼントしてあげて欲しいな、と思います。

 

3)ワクチン接種方法

妊婦のRSワクチン(商品名:アブリスボ)は、妊娠中に接種することで赤ちゃんに抗体を届ける“母子免疫型”のワクチンです。2024年1月から、日本でも接種が可能になりました。

・接種時期:妊娠28週〜36週(特に30~34週が推奨)

・回数:1回のみ

・効果:生後3ヶ月以内の約80%、生後半年以内の約70%のRSウイルス感染を予防

・費用:自費で約3万円

3万円は決して安くないですが。

 

もしも新生児への投薬(商品名:シナジス)が必要な場合は、赤ちゃんの体重によりますが、保険診療の3割負担でも1回2.5~10万円で、これが6~12ヵ月続きます。

 

また、自治体ごとの乳幼児医療費助成制度によって、自己負担額は大きく変わると思います(いくら高額でも窓口負担ゼロの自治体もあると思います)。詳細を知りたい場合は、お住いの自治体へ事前に問い合わせることをお勧めします。

 

4)安全性は本当に大丈夫?

RSワクチンに限らず、新しい薬すべてに言えることですが。

・「現段階では」大きな問題・副作用はないと考えられている。

・しかし、数十年後に「実はこの薬を投与した人(アブリスボの場合はお腹の中にいた赤ちゃんも含む)は、〇〇のリスクが高いことが、数十年のデータ蓄積によって明らかになった」となるリスクはゼロではありません。

これまで説明してきたメリットと、上記のデメリットを天秤にかけて、デメリットへの不安が勝るのであれば、接種はせず、感染予防を徹底するのも、立派な選択肢だと思います。

5)まとめ

妊婦のRSワクチンのメリットは以下の2点です。

 

・最も危険な生後半年以内の感染を、7割予防可能。

・早産、生まれつきの病気あり、の場合に必要な新生児・乳児の高額治療を回避することが可能(いくら高額でも窓口負担ゼロの自治体もあるので、事前の問い合わせを推奨)

 

赤ちゃん(新生児・乳児)の感染が問題となる理由は以下の通りです。

①生後1歳未満、特に6か月未満での重症化リスクが高い

②新生児や早期乳児では、典型的な呼吸器症状がないまま突然呼吸停止(無呼吸発作)となる可能性がある。

③(他のウイルス性疾患と同様に)特効薬はないため、(重症化しても)症状に合わせた対処療法を行うしかない

④以下の場合は重症化リスクが高いために、新生児への投薬が必要となる。その場合、非常に高額な薬を毎月(6~12か月)投与する必要がある

・早産で産まれた ・低出生体重で産まれた・心臓や肺に生まれつきの病気がある

個人的には、金銭面のメリットは無視しても、ワクチンを接種して、赤ちゃんにとっては危険な感染症から赤ちゃんを守るための移行抗体を、生まれる前からプレゼントしてあげて欲しいな、と思います。

                           産婦人科医 まさ

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