
はじめに結論:
◎赤ちゃんの先天性トキソプラズマ症は、妊婦のトキソプラズマ初感染が原因で起こる。
◎猫・生肉・土いじりが必ずトキソプラズマ感染を引き起こす訳ではない。日本での頻度は1万出生あたり1.26人1)に過ぎない。
◎主な感染経路は以下の3つ。ワクチンはないので、感染経路を避ける事での予防が重要。
①庭や畑の土、(公園の)砂場の砂(猫の糞が混入している可能性あり)
⓶洗浄が不十分な野菜や果物、生水(猫の糞が付着・混入している可能性あり)
③生肉、加熱や冷凍処理が不十分な肉(肉の中で死滅していない可能性あり)
◎妊娠のために飼っている猫を手放す必要はない。ただし、感染予防策は必要。
◎母体感染=胎児感染ではない(起こるのは約30%)。胎児感染=後遺障害でもない(起こるのは約15%)4)。
◎診断は、感染を疑う時期から一定期間をあけた採血(IgG・IgMの測定。結果によっては同項目の再検査+IgG avidity検査を追加。)で行う。
◎妊娠中初感染が疑われる場合は、分娩までスピラマイシンを内服する。
胎児への感染を完全に防ぐことは出来ないが、重症化を予防する効果があると考えられている5)。
この記事では、妊婦さんが特に気になる「猫・生肉・土いじり」とトキソプラズマとの関係、感染を予防する方法、妊娠中に感染が疑われた場合の対応について、産婦人科専門医がわかりやすく解説します。

伝えたいことが多いため、長めの記事になっています。
まず以下の目次をみて、知りたい項目から読むことをお勧めします。
目次
1)トキソプラズマとは
トキソプラズマは、主に感染したネコ科動物の糞や、感染した動物の肉などを介して人に感染する寄生虫です。とても小さいため肉眼では見えません。ヒトを含むほぼすべての哺乳類・鳥類に感染可能です。
健康な人では感染しても無症状の場合が多いです。熱が出たり、リンパ節が腫れたり、インフルエンザのような症状や筋肉痛が出る場合もありますが、重症化することは多くありません。
ただ、妊婦が初めて感染すると赤ちゃんに悪影響が及ぶ場合があるため、妊婦とその家族は感染に注意が必要です。
2)どのように感染するかを知り、しっかり予防しよう!

人への感染は、「感染したネコ科動物の糞」か「冷凍・加熱処理が不十分な、感染した動物の肉」のどちらかを、口から摂取することで起こります。
(飛沫感染、空気感染、接触感染などで人から人へうつることはありません。)

ですので、日常での感染経路は以下の3つになります。
これらが口に入らない様にすることが、妊娠中の初感染を防ぐためにとても大切です。
①庭や畑の土、(公園の)砂場の砂(トキソプラズマを含んだ猫の糞が混じっている可能性がある)
⓶洗浄が不十分な野菜や果物、生水(トキソプラズマを含んだ猫の糞が付着・混入している可能性がある)
③生肉、加熱処理や冷凍処理が不十分な肉(感染動物の肉の中で、トキソプラズマが死滅していない可能性がある)

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トキソプラズマはほぼすべての哺乳類・鳥類に感染可能です。
ネコ科の動物では、糞の中にトキソプラズマの虫体が排出されます。しかも、糞の中に排出される虫体は「オーシスト」とよばれる非常に丈夫な構造をしており、一般的な消毒薬で殺すことができません。そればかりか土や水の中に紛れ込んで数ヶ月間にわたって生き続けます。
そのため、感染した猫の糞に汚染された土や水、それらの付着した野菜や果物は感染源となります。
一方で、ネコ科以外の動物では、体内からトキソプラズマが出てくることはないため、ヒトへの感染は、感染動物(豚・牛・鶏など)の肉や内臓等を食べた場合のみで起こります。しかし、肉を中心部までしっかり加熱することで予防が可能ですし、調理前に数日間冷凍するとより予防効果が高いです。

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3)先天性トキソプラズマ症とは?
先天性トキソプラズマ症とは、妊婦を介して胎児(お腹の中の赤ちゃん)へトキソプラズマが感染し、生まれつき何らかの症状を発症してしまう病気です。妊婦のトキソプラズマ初感染で起こり得ます。
「妊娠前」に感染していた場合は、一般的には胎児への感染を心配する必要はありません。ただし、感染時期が妊娠前なのか妊娠初期なのかを正確に判断することが難しい場合もあるため、感染が疑われる場合には早めに産婦人科で相談することが大切です。
【頻度】日本では1万出生あたり1.26人(0.0126%)1)とかなり稀です
【症状】網脈絡膜炎、水頭症、脳内石灰化が主な症状です。ほか小頭症、失明、てんかん、精神や運動発の遅れ、黄疸、肝臓や脾臓の腫れ等が見られる場合があります。出生時には何の症状も示さなくても、成長とともに先天性トキソプラズマ症の徴候がはっきりして来ることがあるため、長期間の経過観察が必要です。
特に問題となるのは、視力障害です。眼の病変だけの場合、学童期まで気づかれない場合もあります。
早期に診断し治療を開始することで、重症化を防ぐことが出来ると考えられているため、妊娠中の母体感染が疑われた場合には、感染時期や胎児への感染の可能性を評価し、必要に応じて治療を行います。
4)母体の感染時期によって胎児への影響はどう違う?
母親が感染した時期によって、発生率と重症度が異なります。
●妊娠初期の母体感染:胎児感染の頻度は低いが、感染すると胎児は重症化しやすい。流産となる場合もある。3)
●妊娠後期の母体感染:胎児感染の頻度が高いが、感染しても胎児は軽症の場合が多い。
また、妊娠中の母体初感染のうち胎児感染が起こるのは30%のみ、しかも何らかの症状を発症するのは更にその中の15%のみで、残り85%ではほぼ正常に発達(小児期に脈絡膜網膜炎を発症することはあり) というデータがあります。
大切なのは
・母体感染=胎児感染 ではない(起こるのは約30%)4)
・胎児感染=後遺障害 でもない (起こるのは約15%。残り85%は、小児期に脈絡膜網膜炎を発症する場合があるものの、正常に発達する)4)
・出生時には問題となる症状がなくても、成長するにつれて症状が出る場合もあるので、長期間の経過観察が必要
という事です。
5)妊娠中、猫を飼っていても大丈夫?
妊娠したからといって、飼っている猫を手放す必要はありません。
猫に触れることで感染するのではなく、主に感染した猫の糞に含まれるトキソプラズマ(のオーシスト)を口から取り込むことで感染します。つまり、もし既に飼い猫が感染している場合、「その糞が」自身(および胎児)への感染源になり得ます。よって、妊娠中は猫のトイレ掃除はできるだけ他の家族にお願いしましょう。もし自分で行う場合には手袋を使用し、作業後は石けんと流水で十分に手を洗うことをお勧めします。
また、猫は室内で飼育し生肉を与えないことで、猫の感染予防を行うことも大切です。
妊娠中に新たな猫を飼い始めることは避けた方が無難です。
6)妊娠中に生肉を食べてしまったら?
妊娠中に生肉を食べてしまったからといって、必ずトキソプラズマに感染するわけではありませんが、加熱が不充分な肉はトキソプラズマ感染のリスクがあるため、妊娠中は避けることが大切です。
「知らずに生肉・生焼けの肉を食べてしまったけれど大丈夫だろうか?」と心配な場合は、かかりつけの産婦人科に食べた時期や食品の種類などを伝えて相談しましょう。

診断のための採血は、感染を疑う行為から一定期間をあけて行います。感染から抗体が陽性化するには時間を要するからです。
慌てて受診する必要はなく、予定している次回健診時に相談しましょう。
7)トキソプラズマの検査|IgG・IgM・IgG avidityで診断。persistent IgMがあるため、IgM陽性=妊娠中初感染ではない!

重要!先に結論:
①IgG(-),IgM(-):現段階では感染していないが、抗体未保持のため感染予防が必要
②IgM(+):妊娠中初感染の「可能性」があるため、精査が必要
③IgG(+),IgM(-):過去の感染による抗体保持の可能性が高く、妊娠中に初めて感染する可能性は(非常に)低い
感染が疑われる場合には、血液検査でIgM抗体(以後IgMと省略)やIgG抗体(以後IgGと省略)、必要に応じてIgG avidity(抗体結合力)を調べます。
◎初めて感染すると、IgM→IgGの順に陽性となります。一般的には感染後2~3週間で双方とも陽性になるため、感染を疑う行為から一定期間(3週間以上を推奨)あけて採血検査を行います。
◎IgMは、一般的には感染後数か月で陰性化するため、「IgM陽性=最近(ここ数か月以内)の感染の可能性あり」 と判断します。ただし、IgMは感染後長期間(弱く)陽性が続く(= persistent IgM)こともあるため、「IgM陽性=最近の感染」とは断定できません。そのため、妊娠中にIgM陽性が判明した場合には、数週間後に追加検査(IgG・IgMの再検、IgG avidityを追加)を行い、妊娠中の初感染かどうか(最近の感染かどうか)を判断します。
①IgM不変、IgG不変、IgG avidityが高値:妊娠中初感染の可能性は低い(persistent IgMを疑う)
②IgM上昇、IgG上昇、IgG avidityが低値:妊娠中初感染の可能性が高い
◎一方で、IgG抗体は感染後は基本ずっと陽性のままです。そのため、IgM(-)、IgG(+) の場合は、過去に感染して既に抗体を獲得していると判断できます。これが、妊娠中初感染の可能性が(非常に)低い理想的な結果ですが、日本の妊婦でこの結果となるのは6%のみです。
8)妊娠中のトキソプラズマ感染を予防する方法
ワクチンが無いため、2)で説明した①庭や畑の土、(公園の)砂場の砂 ⓶洗浄が不十分な野菜や果物、生水③生肉、加熱処理や冷凍処理が不十分な肉 を避けることが予防法になります。
以下に産科ガイドライン2026にある予防策(文献3 より引用)を示します。参考にしてください。
①食事からの感染予防
・肉は十分に加熱して食べる(調理前に数日間冷凍するとより効果が高い)。牛トロ、レバ刺し、馬刺し、鳥刺し、ユッケ、タルタルステーキなどの生肉だけではなく、加熱不十分な肉、生ハムや生サラミからも感染する。特に、野生動物の肉を用いた「ジビエ料理」を食べる場合は、しっかりと加熱調理する。
・貝類(牡蠣、アサリ、ハマグリなど)は生食を避けてしっかりと加熱し調理する。
・野菜や果物はよく洗うか、きちんと皮をむいて食べる。
・生肉や洗っていない野菜や果物を扱った調理用具、食事用具、手指は十分な洗剤と温水で洗浄する。
・猫をキッチンや食卓に近づけない。
⓶環境からの感染予防
・飲料水以外は飲まない(井戸水や湧き水など、衛生状態が確認できない水は避ける)。
・ガーデニングなどで土を触る際は手袋を着用し、土を触った後は手指を石鹸と温水で洗浄する。
・土や砂を持ち込まないように手洗いの大切さを子供に教える。
・砂場にはカバーをかける。
・妊娠中に新しく猫を飼い始めることは避ける。
・飼い猫は出来るだけ部屋飼いにし、食餌はキャットフードを与える。
・猫のトイレの砂は、妊婦以外の者が毎日交換する。
9)感染した場合の治療は?
妊娠中初感染が疑われる場合は、分娩までスピラマイシンという抗菌薬を内服します。
胎児への感染を完全に防ぐことは出来ませんが、重症化を予防する効果があると考えられています。また、より早期から開始した方が重症化予防効果が高いと考えられています。5)
10)感染したかも?と思った場合は?
猫の糞に触れた・生肉を食べた・土に触れた というだけで感染したとは限りません。
しかし、妊娠中の初感染が疑われる場合は、血液検査などで感染の有無(や感染時期の評価)が必要な場合があります。心配な場合はまず産婦人科に相談しましょう。

診断のための採血は、感染を疑う行為から一定期間(3週間以上を推奨)をあけて行います。感染から抗体が陽性化するには時間を要するからです。
慌てて受診する必要はないので、予定している次回健診時に相談しましょう。
11)まとめ|いち産婦人科医からのメッセージ
トキソプラズマに関する質問は、日常の妊婦健診の中でも少なくありません。中には、そればかりが気になって過度のストレスを抱えている様に見える方もいます。

猫・生肉・土いじりが必ずトキソプラズマ感染を引き起こす訳ではありません。
もし運悪く感染しても、
・母体感染=胎児感染 ではありません(起こるのは約30%)4)。
・胎児感染=後遺障害 でもありません (起こるのは約15%で、85%は正常に発達)4)。
そして何より、日本での先天性トキソプラズマ症の頻度は0.0126%(1万出生あたり1.26人)1)に過ぎません。
過度に不安にならず、過剰なストレスにならない範囲で、お腹の赤ちゃんのために、ご家族みんなで感染予防を行うことをお勧めします。

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更に詳しく知りたい方は、「トーチの会」のHPをご覧になることをお勧めします。
産婦人科医 まさ
【文献】
1) Yamada H, et al.:Prospective study of congenital toxoplasmosis screening with use of IgG avidity and multiplex PCR methods. J Clin Microbiol 2011;49:2552—2556 PMID:21543572(II)
2) Pelloux H, et al.:Determination of anti—Toxoplasma gondii immunoglobulin G avidity:adaptation to the Vidas system(bioMérieux). Diagn Microbiol Infect Dis 1998;32:69—73 PMID:9823527(II)
3) 日本医療研究開発機構成育疾患克服等総合研究事業「次時代の実用化を見据えた先天性感染症の予測・診断法に関する開発研究」:トキソプラズマ妊娠管理マニュアル.第8版,2026[Cited 28 Feb 2026]Available from https://cmvtoxo.umin.jp/_assets/pdf/manual_toxoplasma.pdf(III)
4) Dunn D, et al.:Mother—to—child transmission of toxoplasmosis:risk estimates for clinical counselling. Lancet 1999;353:1829—1833 PMID:10359407(II)
5) Foulon W, et al.:Treatment of toxoplasmosis during pregnancy:a multicenter study of impact on fetal transmission and children’s sequelae at age 1 year. Am J Obstet Gynecol 1999;180(2 Pt 1):410—415 PMID:9988811(II)
6) 産婦人科診療ガイドライン産科編2026
※ 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。


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